口臭には様々な要因が考えられますが、ほとんどがお口の中が原因となることが多いです。歯の治療によって、差し歯(被せ物)になっている場合、元々の天然の歯と比べると、様々なトラブルが起こりやすく注意が必要です。ここでは、差し歯(被せ物)による口臭の原因や改善方法について解説します。
適合が悪い差し歯(被せ物)による口臭の原因
差し歯(被せ物)と天然歯の間には、目には見えない隙間や溝が存在します。精度の低い差し歯(被せ物)は適合が悪く、隙間が大きい為、汚れがたまり易い状況です。それにより様々なトラブルが生じやすく、結果として適合が悪い差し歯(被せ物)が口臭を引き起こす原因となります。
汚れがたまりやすい
差し歯(被せ物)を装着して時間が経過すると、差し歯(被せ物)と歯ぐきの間に隙間ができてきます。その部分は磨き残しやすく、食べかすや歯垢(細菌のかたまり)といった汚れがたまることにより、口臭が発生する原因になります。
また、差し歯(被せ物)を長年使用していると、表面が傷つくなどの劣化が起こります。粗造となった差し歯(被せ物)は、さらに歯垢などによって汚染されやすくなります。特に差し歯(被せ物)の材質にプラスチック素材のレジンや銀歯が使用されている場合は、歯垢が付着しやすく、結果として口臭の原因になりやすいです。
二次カリエスが発生しやすい
差し歯(被せ物)や詰め物の隙間に再び虫歯菌が侵入し新たな虫歯になってしまうことを二次カリエスといいます。また、差し歯(被せ物)を接着するときに使用するセメントも、経時的に劣化すると隙間や溝が生じる為、虫歯菌が侵入しやすくなります。
差し歯(被せ物)の歯は、神経を取っていることも多く、痛みを感じないため二次カリエスに気付きにくく、知らない間に進行しやすい状況です。長期間放置され大きな虫歯になった場合、口臭だけでなく、差し歯(被せ物)自体が外れたり、土台になっている歯が破折することもあり、最終的に抜歯となってしまうこともあります。
歯周病が進行しやすい
差し歯(被せ物)と歯の間に隙間ができると、そこに歯垢がたまりやすく、そこへ歯周病菌が入りこみ、歯茎に歯肉炎や歯周病を引き起こします。歯周病は口内由来の病的口臭の主な要因の一つです。そのため、歯周病が進行するとかなり強い口臭を感じます。
口臭の改善方法
差し歯(被せ物)が原因の口臭を改善する方法をいくつかあげます。
適合した差し歯(被せ物)を入れる
長期間経過して合わなくなっている差し歯が入っている場合、新しく合ったものに作り直すことは、口臭を改善する方法の一つです。
ただ、精度の低い差し歯(被せ物)は、どうしても適合の悪い物が多く、結果として同じことの繰り返しになってしまいがちです。
自費診療で行う差し歯(被せ物)の治療は、精度が高く、適合が良い差し歯(被せ物)治療を行う為、結果として口臭を改善する方法だといえます。
例えば、自費治療で見た目の美しさで選ばれることが多いセラミックという素材は、セトモノのように表面がツルツルとして汚れが付きにくい素材です。また、歯の型を採る印象材の種類を変えることで、より精密な型を採ることや、複雑な製作過程の手順を踏むことにより、保険診療で行う差し歯(被せ物)と比べて、より精度が高く、適合の良い差し歯(被せ物)を作製することができます。そのため、汚れが付きにくく、また隙間がほとんどない差し歯(被せ物)を装着することにより、口臭の改善に繋がります。
歯の詰め物・被せ物(差し歯)をセラミックにするメリットとデメリット
硬質レジン前装冠・メタルクラウン
メタルクラウンは歯全体を銀色の金属で覆った被せ物で、硬質レジン前装冠は全体を金属のフレームで覆い、見える部分に白いプラスチック素材のレジンを貼った差し歯です。どちらも保険診療で使われる治療で、安価で作製できますが、銀色の金属やレジンは表面の傷がつきやすいため、劣化しやすく、また歯垢が付着しやすいです。
ハイブリットセラミッククラウン
セラミックとレジンが混ざった材料で作製する金属の裏打ちのない差し歯です。近年、一部の歯や条件によってはハイブリットセラミックが使用されるCAD/CAM冠は保険適応になっています。ハイブリットセラミックにもレジンが入っているため、セラミックと比較すると歯垢が付着しやすいです。
メタルボンド
金属のメタルフレームの上にセラミックを焼き付けた差し歯です。表面に使われるセラミックはツルツルした材質のため歯垢が付着しにくいです。
オールセラミッククラウン
歯全体を覆う差し歯の材料がセラミックによるものです。メタルボンドのような金属の裏打ちがないため、光の透過や反射が自然で、最も審美性に優れた差し歯です。素材自体に汚れが付きにくいだけでなく、
金属に比べ、密着性が高く、土台の歯との隙間がほとんどないため、適合が良いです。二次カリエスになりにくい為、結果として口臭の原因になりにくいです。
徹底したセルフケア
ただ、どんなに精度の高い差し歯(被せ物)を入れたとしても、毎日患者さん自身が行うケアがとても大事です。差し歯や被せ物が入っている部分は天然の歯と比べて歯垢がたまりやすいので、特に丁寧に歯磨きをする必要があります。さらに、歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシの使用もおすすめです。
デンタルフロス・歯間ブラシ
歯ブラシだけでは約58%しか取れなかった歯と歯の間の歯垢が、デンタルフロスを併用すると約86%まで取り除けます。また歯間ブラシを併用することで約95%まで取り除くことができます。1)そのためデンタルフロスや歯間ブラシの併用が虫歯や歯周病予防に効果的なため、結果として口臭の改善方法といえます。
定期的なメンテナンス
お口の状態の変化や差し歯(被せ物)の劣化を患者さんが早期に自覚することは難しく、自覚症状があった時には、すでに様々な症状の悪化を招くことになります。そうした事態を未然に防ぐためには、歯科医院での定期的なメンテナンスが必要となります。
メンテナンスにおいては、差し歯(被せ物)の適合や劣化の状況をチェックするだけでなく、
歯科医師や歯科衛生士によるプロフェッショナルケア(PMTC)を行います。
PMTCとは、Professional Mechanical Tooth Cleaning(専門家による機械的歯面清掃)の略で、通常の歯磨きでは落とすことができない細菌が作った膜(バイオフィルム)を徹底的に除去し、口臭の原因の一つである細菌をきれいに取り除くので口臭予防にも効果があります。
また処置後は歯の表面に細菌が作った膜(バイオフィルム)が付きにくい口腔内環境を作ることができるため、セルフケアもしやすくなります。
その結果、歯周病や虫歯の発症予防・進行抑制のリスクを減らすことができるため、口臭の予防、改善に繋がります。
また、メンテナンスは患者さんによるセルフケアのチェックにもなり、時間の経過とともに発生してくる様々なトラブルを早期に発見することも可能になります。
【まとめ】差し歯(被せ物)が原因の口臭とその改善方法
一般的に差し歯(被せ物)は、汚れがたまりやすく、虫歯や歯周病になりやすいため、口臭が発生しやすい口腔内環境にあります。
口臭を改善するためには、二次カリエスや歯周病の原因になる、適合不良の差し歯(被せ物)を適合の良いものや、汚れのつきにくい差し歯(被せ物)へ再治療することで改善をすることができます。
また日々のセルフケアをしっかり行い、定期的に歯科医院で、セルフケアでは取り除けないバイオフィルムや歯石を取り除くことで、口腔内環境を良い状態に保つことで
口臭を改善、予防していくことが大切です。
出典・参照
参考:1) 山本昇他. 日本歯周病学会誌. 1975.