骨が足りない方のインプラント治療法についてCOLUMN

骨が足りない方のインプラント治療法について

2019年07月04日

監修医師:
歯科医師 歯学博士 山田知里

インプラント治療は、自然歯が欠損した際、顎の骨に人工歯根(いわゆるインプラント。主としてチタン合金製)を埋入し、それを土台として人工歯を取り付ける治療法の総称です。

インプラントを埋入するための顎の骨の厚みや幅が足りない患者さんの場合、次のような施術によってインプラント治療ができるようになっています。

サイナスリフト(上顎洞底挙上術)

サイナスリフトとは、上顎洞(上顎の骨のなかの空洞)に骨補填材を注入して骨の厚みを補う技法です。

サイナスリフトの特徴

歯を支える上顎の骨は、患者さんによって厚みが異なります。また歯周病や自然歯脱落から長期の時間が経過している場合などは歯槽骨の吸収などによって上顎の骨が薄くなり、インプラントを埋入しても人工歯を支える十分な強度が保てないと考えられる場合があります。

こういう際、インプラント治療を行うためには上顎の骨の厚みを人工的に増す必要がありますが、その施術法のひとつとして挙げられるのがサイナスリフトです。

サイナスリフトは歯茎に穴を開け、側面から上顎洞底に自家骨や人工骨素材(主に複合セラミックス)を填入するという施術です。複合セラミックスは骨伝導性(骨の形成を促す性質)があり、体内で吸収され、やがて自然骨に置換しますから、それを待ってからインプラントの埋入を行うという方式となっています。

サイナスリフトのメリットとデメリット

サイナスリフトには、ほかの骨増大施術に比べ、「上顎の骨の厚みが極度に少なくてもインプラント治療ができる」というメリットがあります。

また、既存骨の骨量が不十分なために必要なだけの骨増大が望めないような場合もサイナスリフトが選択される場合があります。

ただし、人工骨が自然骨に置き換わるには数ヶ月~半年間の期間を要し、また比較的手術の規模が大きくなることから、患者さんの身体への負担が大きくなることなどがデメリットとして挙げられるでしょう。

このため歯科医院では比較的身体への負担が少ないソケットリフトやGBR法(後述)といった施術を優先して勧めるところもあるようです。

サイナスリフトの適応症例

サイナスリフトの適応症例としては、上記のように上顎の骨の厚みが極端に少ない場合や既存骨の骨量が不足している場合など、ソケットリフトやGBRなどほかの施術ではインプラントに十分な骨量を確保できないと判断されたものが挙げられます。

ソケットリフト

ソケットリフトとは、上顎洞底の厚みが足りない部分を特殊な器具で上に押し上げて空間をつくり、そこにインプラントを埋入する施術方式です。

ソケットリフトの特徴

ソケットリフトは、上顎洞底の高さが挿入するインプラントに対して「やや足りない」と思われる場合に用いられることが多い施術です。

これは上顎洞底の厚みが足りない部分をいったん持ち上げ、持ち上げた部分に骨補填材を填入してからインプラントを埋入させるという施術で、上記のサイナスリフトに比べて既存骨への依存度が高いことから手術の規模が比較的小さくて済むといった特徴が挙げられます。

なお、上顎洞底に埋入されるインプラントは正式には「インプラントソケット」と呼ばれるため「インプラントソケットで上顎洞を持ち上げる(リフトする)ことからこの名で呼ばれます。

ソケットリフトのメリットとデメリット

ソケットリフトのメリットは主に次の2点です。

  1. インプラント埋入用の穴を使って、上顎洞のほぼ真下(歯の方向)から施術を行うため、歯茎の側面に穴をあけるサイナスリフトよりも手術の負担が小さい
  2. 主として既存骨の増強によってインプラントに必要な骨量を補うため、骨補填材などを使用する量がサイナスリフトに比べて少なくて済む(治療・回復が早い)

その反面、骨補填材をあまり多くは填入できないことから、著しく自家骨の厚みが少ない患者さんの場合はソケットリフトが行えず、サイナスリフトを選択せざるを得ないといったデメリットがあります。

ソケットリフトの適応症例

ソケットリフトの適応症例としては、上顎洞底の高さと挿入するインプラント(ソケット)の長さにあまり差がない(骨増大が少しで済む)ケースが挙げられます。

ただしインプラントを水平方向で固定するだけの骨の幅が不足している場合、ソケットリフトは適用できず、後述のGBR法などが必要になる場合があるでしょう。

GBR(骨誘導再生)法

GBR(骨誘導再生)法とは、既存骨の上に新しい骨をつくること(骨増大)によって患者さん自らの骨量・骨幅を増やし、インプラントの埋入に必要な骨の厚み・幅を確保するという施術方法です。

GBR(骨誘導再生)法の特徴

GBR(骨誘導再生)法も「骨補填材を自家骨と置換させることで骨増大を促し、インプラント治療に十分な骨量を確保する」という点ではサイナスリフトやソケットリフトと同様の施術法です。

ただし、サイナスリフトやソケットリフトが主に骨の厚み(インプラントソケットを埋入するのに十分な深さ)が足りない場合の施術であるのに対し、GBR(骨誘導再生)法は主として歯の前後・左右の水平方向に幅が足りない場合に用いられる施術です。

具体的な施術方法としては、インプラントソケットを歯に挿入した際、歯の厚み不足でインプラントの側面が露呈したり、非常に薄くなってしまったりした部分を「メンブレン」と呼ばれる人工膜で覆い、膜内に骨補填材を填入してからネジ止めなどでメンブレンを補強するといったものです。

GBR(骨誘導再生)法のメリットとデメリット

GBR(骨誘導再生)法のメリットとしては次のふたつが挙げられます。

1.サイナスリフトやソケットリフトだけでは対応しきれない「歯の厚み」を増すことができる

2.ソケットリフト同様、歯の下部から行う施術であるため、上顎洞への負担が少ない

ただし、顎骨や歯槽骨の吸収が進み、既存骨が厚み・幅両方ともに不足している場合などはGBR(骨誘導再生)法だけではインプラント治療を行うことが出来ず、ほかの施術との併用などが必要になるといったデメリットもあります。

GBR(骨誘導再生)法の適応症例

GBR(骨誘導再生)法の適応症例としては、必要最低限の既存骨が残されており、その骨が骨増大できる状態にあることが必要です。そのうえで、GBR(骨誘導再生)法だけでインプラント治療を可能にするためには、上顎の骨の厚みが十分に残されているかどうかも大きな判断ポイントになるでしょう。

【まとめ】骨が足りない方のインプラント治療法について

骨が足りない方のインプラント治療法についてここでは、インプラント治療を行うには骨が足りない患者様のために、骨の厚みを増すサイナスリフトとソケットリフト、骨の幅を増すGBR(骨誘導再生)法という3種の治療法があることをご紹介しました。
もし歯医者でインプラント治療を希望なさった際、歯科医師から「骨が足りないのでインプラント治療は無理ですよ」といわれた場合にこうした施術があることを思い出していただければ幸いです。

公開日:2019.07.04 更新日:2024.06.16
この記事の監修医師:
恵比寿山田歯科医院
歯科医師 歯学博士 山田知里

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